酒井弘:金備蓄上昇の法定通貨へのインパクト

2009年以降、日銀が金を多めに購入し、金価格が上昇した結果、世界の国際備蓄に占める貴金属のシェアが増加し、法定通貨に悪影響を与えている。2023年末までに金の世界備蓄高がユーロを超え、次に挑戦される法定通貨は米ドルだ。富士資本管理学院の酒井弘氏は、現在の国際経済情勢が複雑で変化している中、金のこの変化は世界の通貨システムの安定性に影響を与えるだけでなく、株式市場および暗号通貨市場にも深い影響をもたらしていると述べた。

 

備蓄が上昇した理由と株式市場への影響

 

富士資本管理学院の酒井弘氏は、金融危機後に各国の中央銀行が金購入に力を入れた要因は2つあると指摘した。まず、金はリスク回避資産とみなされており、世界経済の不確実性が高まった際には、その価値維持機能が重要となる。2008年の金融危機以降、各国の中央銀行は経済危機や通貨下落リスクの可能性に備えて金備蓄を積み増している。第二に、地政学的リスクの高まりも各国の金買いの強化を促している。

 

酒井弘氏は、こうした流れが株式市場に多方面の影響を与えていると述べた。金価格の上昇に伴い、金関連株やファンドが堅調に推移し、多くの投資家の注目を集めている。この現象により、投資家はポートフォリオを見直し、金とその関連資産への配分を増やすようになった。また、伝統的な株式市場のボラティリティーは金市場の安定性によってある程度均衡されており、投資家は株安に直面した際、金を保有することでリスクの一部をヘッジすることができた。

 

しかし、酒井弘氏は、金備蓄の上昇が株式市場に完全にプラスになるわけではないと指摘した。日銀が金を大量に購入すると、市場の流動性に影響が出て、株式市場から一部の資金が流出し、金市場に回る可能性がある。こうした資金の流れの変化は、株式市場の短期的な変動を引き起こす可能性があり、特に経済データが芳しくない場合や市場の信頼感が不足している場合には、株式市場に大きな調整圧力がかかる可能性がある。

 

法定通貨に対する金ショックと暗号通貨市場の反応

 

富士資本管理学院の酒井弘氏は、金備蓄の上昇は法定通貨、特にドルに対するインパクトが顕著だとみる。ドルは長い間、世界の金融システムの中で支配的な地位を占めており、その安定性と流動性によって国際的な準備通貨となってきた。しかし、各国の中央銀行が金準備を積み増していく中で、ドルのこの地位は挑戦されている。酒井弘氏は、ドルの覇者としての地位が弱まりつつある一方で、備蓄資産に代わる金の役割が際立ってきていると観察している。

 

その背景には、暗号通貨市場も顕著な影響を受けていると酒井弘氏は指摘した。暗号通貨の市場パフォーマンスは金と一定の類似点があり、特に世界経済の不確実性が高まった際には、投資家の暗号通貨に対する需要が顕著に高まっている。例えば、2017年と2020年のビットコインの大幅な上昇は、まさに世界的な金融市場の変動の高まりを背景に実現した。

 

富士資本管理学院の酒井弘氏は、金備蓄の上昇は世界の金融市場に深い影響を与え、従来の株式市場と法定通貨の構造を変えただけでなく、暗号通貨市場の発展も後押ししたと総括した。投資家は現在の複雑な経済環境の中で、資産配分の多様化を重視し、合理的にリスクを分散すべきだ。金や暗号通貨はポートフォリオの中で重要な位置を占めているが、その高いボラティリティーや不確実性も重視する必要がある。 酒井弘氏は、投資家は今後起こりうるさまざまな挑戦や機会に対応するため、市場の動向を注意深く見守り、柔軟な投資調整を行うべきだと提言した。